大人が風邪をひいた時

私は3ヶ月の女の子をもつ新米ママです。実は3日ぐらい前から主人が風邪を引いてしまい、特に咳がひどいようなのでマスクをしてもらっているのですが、なにぶん狭いマンションなもので娘や私にうつらないかと心配です。Q&Aのコーナーに、風邪がうつってしまうのは仕方ないこと、と先生はおっしゃっていましたが、まだ3ヶ月と小さいので大丈夫でしょうか? 何か注意することなどありますか? (新潟・Yさん)

まだ小さな赤ちゃんということで、いろいろとご心配なことがあるでしょうね。子育てに決まり切ったものがあるわけではありませんので(大切なことはいろいろとありますが)、いろんなことを経験しながら、勉強していって下さい。

ご質問の件ですが、もちろん赤ちゃんに風邪をうつさないほうが良いわけで、私が「しかたない」と書いているのも、「大いにうつしなさい」というような意味合いではありません。

マスクは、伝染させないようにするには、あまり効果がありません。咳をすると、その飛沫が数メートル飛んでしまいますが、マスクをしていても、あまりその程度は減らないようです。また、空気中に飛び出した飛沫が、しばらくは空気中にありますので、直接かかっていないのに、移してしまうこともあります。まずは、直接に咳がかからないようにすることです。ひどい咳の時は、別な部屋にいてもらうことになりますね。

また、換気を十分にして下さい。今の季節なら、窓をよく開けておくことで、できると思います。冬場では、部屋を閉め切らず、できれば外の扉や窓をいつも少しあけ、家の反対側の換気扇(お風呂場や台所)を回しっぱなしにして、いつも「すきま風」が通り抜けていくようにするといいようです。(最近の住宅では、常時、家全体を換気する「全館換気」あるいは「計画換気」が取り入れられるようになってきています。余談ですが、当院は10年前の建築時に、スウエーデンから輸入して設置し、大変効果を発揮しています。)

マスクをしている位ですので、おそらく赤ちゃんの健康には十分気を使っているはずですが、もしもタバコをすうようでしたら、絶対にやめてもらって下さい。言うまでもなく、赤ちゃんの気管支をいためて、風邪を引きやすくしたら、長引かせたりすることがありますので。(もちろん、ご自身の健康のためにも)

3か月程度の赤ちゃんは、まだお母さんから産まれる前にもらってきた免疫(移行免疫といいます)がまあまああるので、さほど風邪をひいたりすることは少ない時期です。あまり出歩いたりせず、接触する人が限られているせいもありますが。でも、お母さんが風邪などの感染症にかかってしまった時は、その病原体にたいする免疫を持っていなかったわけですから、赤ちゃんも「無防備」な状態です。お母さんと同じ風邪をひいてしまうことが、十分に予想されます(もちろん、一番濃厚な接触をしていることも関係しています)。お母さんを「隔離」することは、とうてい無理ですので、「ある程度仕方ない」とお話をしているのは、こういった理由からです。

病気の種類では、最近ときどき問題になるのは、百日咳と結核です。お母さんからさまざまな種類の免疫をもらって生まれてきますが、この百日咳については例外で、移行免疫はありません。つまり生後すぐからかかりやすいわけです。(三種混合の予防接種を、生後3か月になったら早めに始めるようお願いしているのは、このためです。)症状は、ゼロ歳の赤ちゃんがかかると大変重症になることがあり、「無呼吸発作」をおこしてしまこともあります。そこまで行かなくても、とにかく苦しそうな、ひどい咳になってしまいます。ときどき百日咳の乳幼児を診察するのですが、家族の大人の誰かからもらっていることがほとんどです。早めに診察して、十分に治療を受ける必要がありますので、もしも大人の方の咳があまりに強いようなら、きちんと診察を受けて下さい。(百日咳の咳は、5〜10個ほど強い咳が続き、その間、息を吸うことができず、最後になって、やっと息を吸えるというのが、典型的なものです。熱は最初の数日、微熱程度で、咳がひどくなってからは熱はありません。名前のとおり、100日ほど続いてしまいます。伝染力は、治療を受けないと、咳の出始めから数週間ぐらい続きます。)

もう一つの結核は、やはり大人で見過ごされている例が少なからずあるようです。こちらは、もし乳幼児がかかると、肺の結核ではなく、全身性の敗血症や髄膜炎といった、命にかかわる重症な状態を引き起こしかねません。大人の方で、咳が長引いているときは、やはり受診をしていただきたいと思います。

最後にもう一つ。赤ちゃんの感染症で、髄膜炎、脳炎、肺炎など、重いものも少なからずあります。これらをおこす病原体は、大人からもらっていることが多いはずです。大人にとっては軽い風邪でも、赤ちゃんが重症な病気になってしまうこともあります。ときには大人の不注意でおきていることもありますが、でも、100%防げることではありません。人間が社会生活を送っている限り、「お互い様」の部分は必ずあります。家族という社会でも同じです。最初の繰り返しになりますが、決して「大いに病気をさせなさい」と言っているわけではありません。その一方で、風邪などの感染症をいたずらに怖がる必要もないと思っています。「ある程度」は仕方ない・・赤ちゃんや子どもが病気になったとき、ゆっくり待っていていいのか、早く対処しなければいけないかが見極められれば良いのではないか、とも思っています。

子育てには、何でもあり! 病気もけがも、喧嘩も・・(夫婦喧嘩も?)その一つひとつのトラブルを、上手にこなしていくことを楽しむ余裕が出来てくると、子育てが楽しいものになってくるのではないでしょうか。

また何か分からないことや心配なことがありましたら、どうぞメールを入れてみて下さい。

キーワード:大人の風邪、百日咳、結核

2000.10.8

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塚田こども医院Q&A2000年10月