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2009年05月09日

新型インフルエンザは必ず流行します

 とうとう日本でも新型インフルエンザ患者が確認されました。昨日カナダから帰国した高校生と引率の先生の3人。成田空港で患者であることが分かりました。

 今日は朝からこのニュースが繰り返し大きく取り上げられています。新聞は号外がでたようですし、夕刊の1面トップの大きな記事になっています。

 患者さんは今のところ比較的軽くすんでいるようです。ブタ由来の新型インフルエンザ・ウイルスが“弱毒”だということですので、普通の生活に戻るまでにそれほどかからないことでしょう。

 今回確認された患者さんから二次的に感染することも心配です。「濃厚接触者」についてはここ10日は“隔離”され、新型インフルエンザを発症してこないかどうかの確認がされます。長い期間“幽閉”されるわけですので、この方々にとっては大変ですが、日本に新型インフルエンザを持ち込まないために、どうぞご協力下さい。

 今回は外国で感染してきたので、本当は「国内発生例」ではありません。何とかこのまませき止められればいいのに、と多くの方が思っておられるでしょう。私もできればそう願いたいのですが、それはとても無理なこと。

 実は政府も、今の“水際作戦”が完全だとは考えていません。むしろ、国内発生は必ずある、そして流行もするものとしています。問題はその時期だけなのです。

 では今行っている検疫は必要ないことなのでしょうか。そうではありません。その意味合いは「国内に持ち込ませない」ためではなく、「持ち込む時期が少しでも遅れるように」するためなのです。

 検疫を全くしなければ、たちまち日本に新型インフルエンザ・ウイルスが入り込み、患者発生があいつぐでしょう。問題になるのは、新型インフルエンザを迎え撃つ体制ができているかどうか、です。

 いきなり流行が始まればパニックになりかねません。新型インフルエンザを診療することのできる病院をきちんと用意することも難しいでしょう。患者さんが一般の医療機関を次々と訪れるようになると、通常の医療活動ができなくなります。それどころか、病医院でどんどんと感染を拡大させていくことになります。

 一般の方の生活面でも問題になります。国内流行時にはおそらく学校は臨時休業になるでしょう。仕事もできれば休んで自宅待機するように指示が出されます。休みたくなくても、子どもが発症すれば親御さんは休まざるをえなくなります。

 買い物などもなかなかできなくなるので、あらかじめ食料など、生活に必要な物品を用意しておかなくてはいけません。そのためにも「時間」が必要なのです。

 繰り返しますが、新型インフルエンザは日本でも必ず患者が発生し、そして流行します。今行っている手だては、その時期を遅らせる方策です。

 今回新型インフルエンザにかかった高校に対しては、マスコミなどでやり玉にあげられています。確かに感染予防の対策が十分ではなかったようですし、症状がでてからの対応は適切ではなかったでしょう。でもこんな状況には医療従事者でもきちんと対応できないでしょう。学校や教員を責めるのは酷です。

 いずれ流行する・・そのために何をしていなくてはいけないか。政府も、医療機関も、一般の方も冷静に考え、必要な対策をきちんと準備していく必要があります。今回の“水際作戦”はその時間稼ぎをしてくれているという意味で、十分に成功していると思います。

投稿者 tsukada : 2009年05月09日 23:13