« ポストの数ほど | メイン | 水泳パンツにご用心 »

2007年03月12日

断念する勇気

 3月中旬というのに、真冬のようなお天気。外は雪が降り続いています。今年一番の積もり方です。

 これまでもこの時期にこの程度の雪が残っている年はありました。でも1月、2月にほとんど降らず、春のような日が続いたあとに、冬に逆戻りしたかのようなお天気は、初めての経験です。

 実際、すでに春の花粉症は始まっていて、スギ花粉はそうとう飛んでいるのに、外は雪景色なんて、全くへんてこなお天気。今はいったい冬なのか春なのか。春に向かっているのか、それとも冬に向かっているのか。頭の中が整理つかなくなりそうです。

 春の就学旅行シーズンにもなっています。雪国の子どもたちは、だいたい温かいところに行くことが多いので、気候の点ではそれほど心配はしていません。でも、インフルエンザが・・。

 季節外れ(?)に大流行しているインフルエンザが、学校の行事にも影響を与えています。卒業式、受験もそうです。そして、修学旅行に参加できない生徒も出始めています。

 明日から修学旅行に出かける中学が、市内にあります。その学校では今インフルエンザが流行中。明日いよいよ出発というのに、その直前にインフルエンザにかかってしまった生徒さんがでています。当院でも、今日お二人の方を診察しました。

 これが普通の風邪なら、明日までに体調を整えてかろうじて送り出せたかもしれません。残念ながらインフルエンザでは、そうはいきません。タミフルなどの抗インフルエンザ薬を使用することで早く治すことができるといっても、完治までには数日かかります。学校伝染病の扱いも、解熱して2日経たないと登校停止は解除しないことになっています。

 どんなに逆立ちしても、明日解熱するかどうか。たとえ熱が下がっても、まだインフルエンザ・ウイルスを持っている状態でしょうから、いつまた発熱したり、咳など他の症状が出てくるか分かりません。インフルエンザはそうとう体力を消耗する病気ですので、体調が良くなっているとはとても考えにくくい。やはり、明日の修学旅行の参加は本人のためにも見合わせることになります。

 そればかりではありません。インフルエンザの感染力はとても強く、列車、バス、飛行機などの閉ざされた空間に一緒にいると、他の生徒や先生方に伝染させてしまう可能性はそうとう高いものです。潜伏期は1〜2日程度ですので、修学旅行の途中で次々にインフルエンザ患者が発生することになりかねません。

 旅行先ですから、適切な医療を受けられる体制があるのか、不安です。比較的大きな都市などへの修学旅行であれば何とか医療機関を探し出すことはできるでしょうが、それでも移動中のことですから、受診のタイミングなどは難しいでしょう。一人の受診のために、全体の移動を中止したりしなくてはいけないかもしれません。

 受診ができ、タミフルなどの処方を受けることができたとしても、その後の看病をどうするのか。養護教諭が付いているかもしれませんが、休める場所の確保もままならないことでしょう。家庭のように、眠れるだけ寝かしてあげるなどということも、不可能です。発症した子どもさんと、付きそう教諭を残してくるわけにもいきません。

 少数の発生であれば、まだ何とかなるかもしれません。修学旅行の計画をたてるときにも、急病の子どもが出たときの対応は、ある程度は整えてあるでしょうから。しかしインフルエンザという感染症は、一挙に多数の患者を発生させる性格をもっています。何人も、あるいは何十人もの子どもたちが一斉に発熱し、文字通り動けなくなってしまったら、その対応は困難を極めることは明らかです。

 インフルエンザのお子さんが、完全に治った状態ではないのに参加すると、自分自身の問題だけにとどまらず、他の人たちに大きな迷惑をかけてしまうことが起こりえます。表現は悪いのですが、インフルエンザという病気の「被害者」である患者が、他の人へ感染させてしまう「加害者」になりうる、というわけです。

 結論はただ一つ。涙をのんで修学旅行への参加を断念することです。今日は、がっかりするお子さんと親御さんを見て、こちらも辛かったのですが、そこは心を鬼にして、「ドクター・ストップ」をかけさせてもらいました。

 山頂近くまで登山ができても、遭難の危険が大きい場合には引き返す勇気も必要だと言われています。困難な山に挑戦する勇気とともに、冷静に判断し、その結果によって断念することも、同じくらい、いやそれ以上に大切な勇気だと。

 明日の修学旅行を目の前にしながら、インフルエンザという病気にかかってしまったことで、泣く泣く参加をあきらめた子どもたちと親御さんも、大きな「勇気」を持っていた、ということが言えるかもしれません。

 辛くて悲しい経験になったかもしれませんが、きっとその分だけ心の器が大きくなることでしょう。修学旅行で得られるもの以上のものも、心の中に育てることができるかもしれません。

 友だちには、この子たちの分も楽しみ、勉強をし、身につけて来てください。みんなのことも思いながら“残留”したわけですから、お土産もたっぷりお願いしますね!

投稿者 tsukada : 2007年03月12日 23:58