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2019年10月05日

失われた時間

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 ヒトパピローマワクチン(子宮頚癌予防ワクチン)の接種を、久しぶりに行いました。当院での最後の接種が2014年5月。実に5年数か月もの「失われた時間」がありました。

 若い女性に発症しやすい子宮頚癌の多くは、ウイルス感染から始まっています。そのウイルスに対する抗体を作っておけば、感染を受けることなく、そして癌になることはない。そういった理論のもとで開発されたワクチンです。

 すでに世界で広く使われ、子宮頸癌の発生を抑制し、若い女性たちの命を守っています。残念ながら日本では、現在ほとんど受ける方がおられません。

 定期接種という制度は整備されています。それに即して行えば無料です。ワクチンも供給されています。それでも受けていないのはなぜ?

 このワクチンは筋肉内注射(筋注)です。日本のワクチンは皮下接種によって行われることが多く、接種する医師も、接種を受けるこどもたちも筋注に慣れていませんでした。そのために、注射時の痛みを強く感じたことでしょう。

 そして、その後に慢性疼痛などの症状を訴える方が発生しました。

 医療行為をきっかけに起きている症状ですので、広く救済する必要があります。ただ、医学的な副作用とするかどうかは議論が必要です。

 例えば、日赤は献血の際にも起こりうることとして報告し、対応しています。献血ですから体内に薬品などが入ることはありません。皮膚に針を刺した時の痛み刺激がきっかけです。

 マスコミはこの事を大きく取り上げ、とても怖いワクチンだという印象を社会に広めてしまいました。厚生労働省も、制度はそのままにしておくが、「積極的な勧奨はしない」という方針をとりました。その結果、日本でこのワクチンを受ける人がほとんどゼロになったということです。

 やっと少しずつ理解が進んできているのでしょうか。

 接種という「英断」をされた親御さんにお話を聞きましたが、やはり悩まれたそうです。でも、正しい情報にも接し、お子さんを子宮頸癌から守るためにワクチン接種を受けさせることを選択されました。

 ワクチンに対して悪意のある情報もきっと見聞きされたことでしょう。それらに惑わされずにしっかりとした考えをお持ちになったことに、敬意を表しました。

 当院で5年ぶりに接種が再開とはいっても、受けた方はまだごく少数。まだほとんどの方は受けていませんし、受けようとも考えていません。いつになればこういった状況から脱出できるのでしょうか。

 第一線にいる私たち小児科医も、しっかり対応しなくてはいけないと思いました。「失われた時間」が少しでも短くなるよう、願っています。

投稿者 tsukada : 2019年10月05日 17:00