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2015年10月06日

TPPの本質は・・

 環太平洋パートナーシップ(TPP)が、閣僚レベルで基本合意に達したと報道されました。日本の担当大臣の甘利氏のホッとした顔がニュースに流れていましたが、ことの本質をどれくらい分かっているのか・・そう思うと、何とも言えない気持ちになります。

 日本をアメリカ合衆国と同じ政治システムにする、というのがこのTPPの根本です。主には経済面ではありますが、広範囲に渡ってそれぞれの国の制度(アメリカを除く)の変更を余儀なくされていきます。その詳細を政府が国民にほとんど説明していないことに、このTPPの重大な問題があります。

 関税が引き上げられるとか、輸入枠制限を撤廃することなどという「数字」だけが報道ではとりあげられていますが、それは実は本質ではないのです。それぞれの国の制度を、アメリカと同じものにするという、実はもっとも大きな問題なのですが、あまり関心が寄せられていません。

 そんな中では「食の安全」については多少取り上げられています。食品添加物は日本では厳しい規制がありますが、アメリカでは緩いようです。「自由貿易」を推奨する立場からは、日本での規制基準は貿易上の障壁になるので撤廃すべきだ、という主張になります。経済最優先なのですから、それぞれに規制基準に科学的根拠を示す必要はありません。アメリカの企業にとって不利になる、邪魔になるものは受け入れられない・・そういうことです。そこに国民を守る「安全」という考えはありません。

 私にとっては、医療も大きな問題です。日本には世界にほこる「国民皆保険」という制度があります。すべての国民が何らかの医療保険に加入し、必要な医療を公的な保障のもとに受けることができるというものです。「誰もが、いつでも、どこでも、安価に」医療を受ける制度・・それが完備されているのは、世界中で日本だけです。

 もちろんアメリカにはありません。民間の保険会社の医療保険に加入するのが通例(低所得者や高齢者向けの医療制度がありますが、例外的存在です)。加入している保険によって、受けられる医療サービスが異なっています。そして、民間の保険に入っていない人たちは、必要な医療を受けることができません。

 アメリカの大資本は、日本の公的医療制度を目の敵にしています。日本では通常の保険に加入している限り、民間の医療保険は必要ないからです(最近は医療保険の内容が制限されつつありますが、それでもまだ十分な保証を受けられます)。

 日本から公的医療保険がなくなれば、アメリカの大資本は大もうけできます。それを虎視眈々と狙っています。そしてその日が訪れる日が来ようとしています。その時、日本でもアメリカと同じ状況・・お金がなければ満足な医療が受けられない・・になることでしょう。貧富の差は、健康面でもさらに拡がっていきます。

 TPPの詳細な内容が公表されていません(今後数年間は情報開示しないのだそうです・・それってあり?って思いますが)。医療面がどうなるか、予断を許さない状況です。

 大きな交渉をまとめたと喜んでいる政府ですが、ことの本質が分かっているのでしょうか。それとも、国民の健康と引き替えにしても、輸出で黒字を出している大資本のもうけをさらに多くするのが、国のためだと思っているのでしょうか。

 TPPが大筋合意だということですが、その内容はまだ分かりません。もっとおかしな方向に進むかもしれませんが、逆に立ちゆかなくなるかもしれません。

 同じ制度を共有することがTPPの趣旨だとしたら、医療面では日本の皆保険制度を見習って、他の国々も同じ制度を作っていくことを求めていきましょう。それぞれの国の良い点を、他の国にも広めていくことが、本当のPTTの精神だと思います。アメリカと同じ制度にすれば良いというものではないはずです。

 TPP交渉がこんな状況なので、これからは国民皆保険制度を守り、より強固なものにすることが急務になってきました。日々の診療の中でも、それを訴えていきたいと思います。

投稿者 tsukada : 2015年10月06日 22:36