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2012年12月03日

欠陥トンネルはなぜ放置されたのか

 昨日、中央自動車道の笹子トンネルで天井が崩落するという事故がおき、9名の方の命が奪われました。想像だにしていなかった重大事故です。

 天井のコンクリート板(1枚1.2トン)が300枚以上、一挙に崩れ落ちたとされています。「つり天井」の構造になっていて、トンネル本体の上部からつり下げられていますが、その付け根のボルトがそのまま抜け落ちたというのが事故原因だそうです。

 30年以上経っていて「老朽化」していたのではないか、と指摘されています。コンクリート内に打ち込んであるボルトが腐食したり、周囲との間に入れた特殊な樹脂が変性したり。何が起きていたのかは、これから原因究明をまつことになります。

 全国では何十か所ものトンネルが同じ構造をしているそうです。私がときどき使う関越自動車道の清水トンネルもそうだとか。緊急に点検しなおし、必要とあればすぐに補修や補強工事をしてほしいものです。

 ニュースの映像は衝撃的でした。トンネル内に上から落下した大きな板が、V字型に敷き詰められたかのようになっています。どこか1つ、あるいは少数のボルトがはずれ、それが「ドミノ倒し」のように、次々と天井板を落下させていったのでしょう。

 ここで問題にしたいのは構造設計の基本的な考え方です。ボルトがはずれることを想定はしていなかったのでしょう。それ自体に欠陥があったことは、今回の事故をみれば明らかです。

 さらに、もし何かの原因で天井板がはずれたときに、それが1つだけの落下で終わるような対策が全くとられていなかった、というのが、大惨事につながった要因です。

 天井板は中央が上からつるされ、横はトンネル外壁に固定されています(それとも棚のように置かれているだけかも)。それぞれの天井板をワイヤーなどで外壁とつないであれば、もしものことが起きても、空中でブラブラするだけで、地面まで落下することはないはずです。

 その程度の補強工事は容易にできるはずですし、費用もさほどかからないでしょう。それがどうして行われなかったのか。(もしかしたら、今後も行われないかもしれませんが・・ボルトの点検だけで終わってしまうかも)

 現場や他のトンネルの映像をみて、急に不安になりました。そんな構造をしているとは、私たちは知らなかったのですから当然です。

 でも関係者はどうなんでしょうか。トンネルを設計した人たち、工事をした人たちは本当に「絶対崩落することはない」と信じていたのでしょうか。その後の維持管理もどうだったのでしょう。老朽化を心配して点検をしていたはずなのに、不安に思うことはなかったのでしょうか。

 点検作業を実際に行った人たちは、少しも不安に感じることはなかったのでしょうか。誰か・・現場の人でも、点検を指示したりプランをたてている人でも、あるいはかつて設計したり、工事をした人でも、誰もが心配することはなかったのでしょうか。

 それぞれの人たちにとくに法的な責任はないかもしれません。きっと刑事責任はないでしょう。でも、それでプロとして仕事をしてきたことを、誇りに思えますか? ぜひ自問自答して下さい。

 トンネルではありませんが、釣り天井の事故は過去にいろんなところで起きています。とくに地震の揺れによって、室内プールの天井が落ちたり、都内の歴史ある会館の天井が崩れたりしたことは記憶に新しいところです。

 この時には社会問題になり、少なくとも以後の建物などには釣り天井は使わないことになったのではなかったでしょうか。(当院が今年夏に増改築したとき、玄関周りに天井をつけるときにも、業者さんがもしもの事故があってはいけないと、釣り天井ではなく、鉄骨で骨組みを作り、天井板を1つ1つ張り付ける工法を採用しました。)

 その時に、自分が以前作ったあのトンネル、今点検をしているあのトンネルは大丈夫かな、と思い巡らせることはなかったのでしょうか・・。きっとなかったのでしょうね。

 ボルトがゆるんで天井が崩落・・でも、もしかしたら最大の原因は、もしものことを考えずに作り、その後も考えることがなかった人たちの気のゆるみだったのでは。

 今後、同じような事故をおこさないために何をすべきか。しっかりと考え、すぐに対応してほしいものです・・トンネルだけではなく、社会の中のあらゆるものに対して。それが今回の大きな犠牲を教訓として学び、活かすことになると思います。

投稿者 tsukada : 2012年12月03日 20:26