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2011年05月08日

「菅」違い総理

 一昨日の菅総理大臣の記者会見には驚きました、いろんな意味です。夜7時からのNHKニュースを見ている途中で突然記者会見場に切り替わり、中継で会見の様子が放映されました。

 内容はご承知の通り、静岡県にある中部電力浜岡原発の運転停止を要請したというものです。この地域で大地震が近い将来に起きるのが分かったので、危険性を避けるためにという理由でした。

 総理の発言を聞きながら、日本は原子力発電から撤退する方針に転換したのか、と思ったのですが、どうも勘違いのようです。浜岡原発の立地という固有の問題であり、さらなる津波対策としての防潮堤ができるまでの2、3年間、運転をしないようにという「お願い」なのだそうです。

 会見の内容がわかるにつれ、逆に不可解な思いになってきました。なぜ今、この時間に総理大臣が記者会見? 本当に浜岡原発は停止するの? 他の原発はどうするの? これまでの「原発推進」という国や民主党の方針はどうするの?

 今日のニュースでは、中部電力に要請が伝えられたのは会見の40分前だったそうです。総理が社長に電話で話をし、その直後、国民に向かって発表したことになります。政府部内で検討した形跡はないそうです。前日に担当の大臣が現地を視察したときにも、運転停止については触れていないようです(定期点検中の1基を再稼働させるかどうかを5月上旬に決めたいと言っただけです)。担当大臣とも詰めていなかった、ということなのでしょう。

 中部電力は民間企業ですから、その運営について直接指示をだすことは、法律によらなければならないはず。今現に事故を起こしているなどといった「緊急事態」であれば、政治の責任として強いリーダーシップを発揮する必要があるでしょう。でも地震発生の予測などは以前から指摘されていること。今回の大震災を受けて、国からの私指示を受け、原発の電流バックアップ体制などを強化している最中です。どうして今すぐ「稼働停止」なのか。突然のことであり、拙速の批判を免れないと思います。

 テレビ中継という形で国民に直接訴えたということも、その趣旨が理解できません。停止を「要請」はしたけれど、「決定」したことではありません。法律に基づくものであれば、命令のような形で国の方針を伝えることは、自動的に停止にいたることになります。でも、今回はあくまでも「お願い」であり、それを受けるかどうかは中部電力が判断することです。

 総理大臣から直接電話がかかっているわけですから、無視できることではないでしょう。原発を危険視する世論も気になるはず。きっと最終的には稼働停止という決定を中部電力はするのではないかと思います。総理が会見するとしたら、最終的に電力会社の方針が決まってからというのがスジではないのかな。

 民間企業が原発2基を止め、1基を休ませたままにするわけですから、そうとうの費用がかかるでしょう。収益の悪化に対してどのように国が対応するのか。電力不足に陥るおそれもあるわけですので、その対応をどうするのか。そういったスキーム(枠組み)を考え、中部電力と詰め、そして稼働停止にもっていく・・国の責任とはそのようなものではないかと思います。今事故を起こしているというわけでもありませんし、今日や明日に大地震や大津波がやってくるというわけでもないのですから。

 わずか40分でことを進めようという方法には、改めて驚かされます。そんなに俊敏に行動できるのなら、どうして福島第一原発が被災し、電源供給がたたれ、緊急事態に陥ったときに、すぐに対応できなかったのか、突っ込みを入れたくなります。翌日に「勉強したいから」と現地にヘリで飛んでいったのは何だったのですか・・。

 話はそれましたが、会見を聞いていて疑問に思ったことがほかにもあります。総理は危険だから稼働を停止させると言ったけれど、停止すれば危険はなくなるのか? 現に福島の事故では操業停止中の原発も事故を起こしています。使用済み燃料棒を保管しているプールも被災し、電源を喪失したために外部から水を注入しつづけなければいけない状態になりました。

 原発の稼働停止によって危険性がなくなるわけではありません。安全性をさらに高めるための対策を、より早く、よりしっかりと行うことがまず必要です。稼働していても、地震や津波があっても安全に停止させることもできるかもしれません。そうであれば、何が何でも今すぐに稼働停止するんだという方針そのものに整合性が見いだされません。

 総理は何を急いでいたのでしょう。もしこれで中部電力が断ったら(そんなシナリオは彼にとっては「想定外」でしょうが)どうなるかな。これまで国策として原発を推進し、それを民間企業にやらせていたわけですから、これ以上振り回されたくない、という判断もありかも・・。

 国として原子力発電をどう考え、これからどうしようとしているのか。総理大臣が発言すべきは、そういった大きな方針でしょう。40分前に電力会社の社長に電話をし、こんな話をしましたよ、などということではないはずです。

 菅総理大臣の大いなる「勘」違いです。

投稿者 tsukada : 2011年05月08日 10:07