« 断らない病児保育 | メイン | 発達の節目 »

2010年03月22日

続・断らない病児保育

 親御さんからの申し込みをいっさい断らないという方針は、利用者からは至極当然といえるものですが、一方で病児保育事業の実施側からすると「無謀」ともいえるものです。両者での理解の隔たりは大きなものがあります。

 しかし、実際にその方針通りに事業を実施していると、好都合なことも多々あります。定員が実質的にないわけですから、申し込みがあれば自動的にすべて受け入れることができます。当たり前のことですが、定員があると受付そのものがけっこう大変な仕事になります。

 多くの施設では定員があり、それを超える申し込みがあればいったんお断りすることになります。それでも利用希望があれば「キャンセル待ち」として登録し、実際にキャンセルの有無を再度連絡する必要があります。

 いつ受け付けるかも問題になるでしょう。前日から受け付けているのであれば、その時点ですでに定員いっぱいになってしまうかも。当日受け付けるとしたら、何時からどのような方法で受け付けるかといった問題も発生します。

 当院は当初から「希望者全員受け入れ」でしたが、当日の受付方法が問題になったことがあります。利用者を確定するためにまずは電話を入れて下さいとお願いしていましたが、保育士の朝一番の業務が電話受付で忙殺されることもしばしば。直接来ていただいてもいいのですが、受け入れの手間がよけいにかかっていました。

 考えた末の解決策が「留守番電話」です。夜間は病児保育室の専用電話を、録音のできる留守番に切り替えておきます。利用を希望される方は留守電にお名前などの必要事項を吹き込んでおいていただくと、保育士が出勤してきた段階で利用者の大半を把握できます。

 利用者もいつでも(真夜中でも、日曜でも)必要になれば電話1本で受け付けが完了。お子さんを連れて来られると、その時にはすでにカルテなども用意され、受け入れ準備が進んでいます。当然、お互いの時間節約になっています。(親御さんは朝は出勤前で忙しいですよね)

 キャンセル待ちももちろん皆無。希望者にあたらめてこちらから連絡する必要はありません。

 こんなスムーズな受付が可能になるのも、「断らない」という方針があるからこそです。

 そして何よりも、利用希望を断ることによる気持ちの上での負担もなくなります・・お互いに。利用者にとっては、あらかじめ面倒な会員登録をし、税金も投入されている事業なのに利用できないという事態になれば、何のための病児保育なのかという疑問や不信感をもたれることでしょう。ある親御さんにとっては絵に描いた餅に思えるかも。当然です。けっきょく必要な時に頼ることができないのであれば、病児保育事業の意義は大きく減じることでしょう。

 事業を実施する方にとっても、断ることに心苦しさを感じていることでしょう。できれば定員などに関係なく受け入れることができればいいのに、と思っているはずです。

 ・・実はここも問題で、定員を超えれば断るということが当たり前になっているところをみると、精神的な負担を感じていないのかも。心が痛まないはずはないのですが、あまり議論にならないところをみると心配になってきます。

 というのも、ときどき「キャンセルは困る」という声を聞くのです。どのようにすればキャンセルが減らせるか、というのが議論になったりもしています。

 軽い病気の時には予約をしないように親御さんにお願いするという話も聞きました。でも子どもの病気は急に始まり、急に悪くなり、急に良くなる・・それが普通です。今日微熱でも、明日もっと悪くなっているか、それとも良くなっているか、親御さんにはなかなか分かりません。小児科医だって分からないわけです。もし分かるのであれば、予約受付の段階で診察をし、病状の見通しを判断し、利用の適否を判断すればいい。でも無理でしょう。

 当院では「キャンセル大歓迎」と言っています。お子さんの病気が軽くて、登園・登校できるくらいになったのなら、それは良いことです。親御さんが休めるようになったり、代わりの方に保育をお願いすることができるようになったのなら、それも良いこと。

 だから親御さんには心配なら遠慮せずに予約し、必要でなくなったら遠慮せずにキャンセルして下さいとお話しています。(連絡なくキャンセルすることだけはやめてもらっていますが)

 「断らない病児保育」って、やっぱりいいと思います。必要です。もしそれができないとしたら・・どのような保育の体制を作ればいいかを考え、作っていってほしい。

 こんな方針をとって、今年で9年になります。その原点は・・私が親御さんの依頼を断ることができなかったから。断ったことで、信頼されなくなるのもいや。親御さんの困った顔を見るのもいや。

 開設から8年間、行政からの助成を受けることができず、だれにも頼ることなく病児保育を行ってきました。それだけに親御さんとの信頼関係だけが生命線だったといっても過言ではありません。苦労はいっぱいしましたが、その成果は実っています。多くの方に頼りにされ、それにきちんと応えることができていると思っています。

 さて、「断らない病児保育」はこれから拡がっていくでしょうか。病児保育室を増やすことは政府の目標に掲げられています。でも数の拡大だけではなく、その内容も問われていくことでしょう。

投稿者 tsukada : 2010年03月22日 20:56