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2010年03月21日

断らない病児保育

 先日のテレビ放送を受けて、もう一度病児保育の原点について考え直してみました。それは「断らない」ということです。

 お子さんが病気になり、お仕事との兼ね合いが難しく、家庭保育ができないときに役立つのが病児保育です。子どもの病気は大半は急におきます。そして仕事を急に休むことができないのが、大人の社会の通例。

 つまり急な要請にきちんと応えられるかが病児保育の存在意義に関わってきます。逆に、安易にお断りするようでは、病児保育の存在意義は半減してしまうのではないかと危惧しています。

 当院がわたぼうし病児保育室を始めたとき、理念の一つにあげたのが、「お断りしない」ということでした。以来約9年間、断ったお子さんは一人もいません。いたって単純なことであり、当たり前のことです。

 テレビ放送では、ある病児保育施設を利用したけれど、翌日は定員がいっぱいだという理由で断られ、お母さんは働き始めた仕事を辞めざるをえなかった、という事例が報告されていました。私たちの危惧していることが現実におこっているようです。

 施設側の立場にたてば、定員を決め、その中だけで預かるというシステムを作っておけば、運営はしやすいでしょう。行政が関与している場合には、保育水準の維持という名目で、定員を超える病児を預かることを拒絶するかもしれません。

 でもそれはあくまでも施設側の都合。親御さんの立場からはなかなか納得がいかないでしょう。何のための病児保育か、といった疑問が出てくることも当然です。

 きょうだいそろって具合が悪くなることはよくあります。先週も当院では、きょうだい3人を数日いっしょにおあずかりしていました。もしも定員が少なく、一部のお子さんは預かれるけれど、ほかのきょうだいは無理といわれたら、親御さんはとても困ることでしょう。

 どんな要請にも十分に応えられるようにするのは大変です。定員を余裕をもって大きくしておく(当院の病児保育としての利用枠の目安は8名ですが、保育施設として県の認証を受けている定員は25名)、保育士を大目に確保しておく(今冬4名の常勤、4名のパートの合計8名の保育士が勤務していました)、広い施設などが必要です。

 予算のこともあるでしょうし、地域的な事情もあるでしょう。いろんな制約があることは分かりますが、でもやっぱり「断らない」ことを目標にしてほしい。断らざるをえないケースがでるようであれば、どのように改善すればそれが避けられるか検討し、そしてそうなるように実行していってほしい。

 今、病児保育という名前の子育て支援が公的な存在としてクローズアップされています。一昔前は、その名前も知られず、意味を説明してもなかなか理解されなかったことを思うと、時代は進んだものだと感慨深いものがあります。

 と同時に、今の病児保育がこのままでいいのか、という心配があります。「断らない病児保育」という方針をもたない病児保育施設は、申し訳ないけれど、その役割は限定的です。

 政府は今後さらに病児保育を推進していこうという方針だそうです。そうであれば、もう一度「断らない病児保育」という原点を見直し、その実現のためにはどうすればいいか、きちんと検討しておく必要があります。ただ数の上だけで病児保育施設を増やし、預かるお子さんの数を増やしていくだけでは十分とはいえないでしょう。

 さて、こんなことを言っているのは私くらい? 病児保育をやっている方々は、「断る」ことに対して、なぜか疑問をもっていないようなのですが、それは私の勉強不足なのかな。

投稿者 tsukada : 2010年03月21日 20:31