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2009年10月30日

東京都の英断

 新型インフルエンザ予防接種が先週から始まっています。最初は医療従事者から。11月には妊婦や基礎疾患を持っている方に(その中でも子どもたちは最優先)。普通の子どもたちはやっと12月からになります。

 接種の進め方は、国民をいくつかのグループ分けし、その中で優先順位を決めて、ワクチンの生産にあわせて順次行っていきます。おおまかには国(厚生労働省)が「標準的スケジュール」を決め、都道府県がワクチンの供給や地域の事情を加味して「具体的なスケジュール」を決めることになっています。

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(この表は新潟県のスケジュール)

 すでに報道されているように、今のスケジュールではあまりに遅くて、実際に流行に間に合わなくなるかもしれません。すでに日本全体が「注意報」レベルですし、都市部を中心に「警報レベル」になっているところも多いです。

 すべての国民に対して、ただちに予防接種ができるようになれば一番いいわけですが、それは確かに無理でしょう。そんなにワクチンはありませんし、医療機関の体制も整えられません。でも、子どもたちに対しては最優先で、今すぐに接種を行いたい・・そう思います。

 子どもたちが重症化しやすいという意味もあります。すでにここ数か月の流行の中で、脳症になった子どもたちは50名になったという報告があります。毎日にように、重症になったり、不幸な転帰をとる子どもたちのことが報道されています。

 そして何よりも、子どもだから社会の中で最優先に対応されなければならないという「絶対的命題」があります。大人よりも子どもたち。高齢者よりも子どもたち・・社会全体で、子どもたちを守っていこうという気持ちはきっとあると思います。

 1歳以上の幼児などに対する予防接種は、当初、国は12月後半からと設定していました。医療従事者への接種が2回から1回に変更されたことでワクチンに余裕が生まれたため、途中で「12月前半から」と変更しています。

 しかし、実際のスケジュールを作る都道府県がきちんと対応しているとはいいがたい状態です。私のいる新潟県は、国が前倒ししたあとでも、「12月後半から」というスケジュールを変更していません。ワクチン供給が遅れているというのがその理由のようです。国が悪いからだといいたいのでしょう。

 でも、そうではない自治体がありました。昨日のニュースで知ったのですが、東京都は幼児に対して「11月後半から」接種を行うという方針を打ち出しました。前倒しです。ワクチン供給の見通しがたったから、そして何よりも重症になる子どもたちが少なくなく、それを防ぎたいということだそうです。

 片や国の方針よりも遅く行い、片や早く始める・・その差は1か月にもなります。これは大きな違いです。

 ワクチンの供給は、国がその地域の人口に応じて行っています。東京都が約9%、新潟県は約2%。けっして東京都に極端に多く配られているわけではありません。都が、国とは関係なく、どこかからワクチンを買ってきているわけでもないでしょう。東京以外に発送するのに、何日も、何週間もよけいにかかるなどということもないでしょう、江戸時代ではないのですから。

 予防接種は時間勝負です。流行が目の前に迫ってきている(もはやそのまっただ中の地域もありますが)時に、少しでも早く予防接種をすませておくのは、十分条件ではないにしても、必要条件でしょう・・それもそうとう大きな。

 けっきょく何が違うのか・・そこに行政が、子どもたちを本気で守っていこうという思いがどれだけあるのか、それが問われるのではないでしょうか。厳しいことを言うようですが、そこに本質的な違いがあると思われてなりません。

 東京都は英断しました。他の自治体も、ぜひ東京都にならって、思い切った意思決定をして下さい。すくなくとも、国のスケジュールよりも遅くてかまわない、などと後ろ向きの態度はとらないで下さい。よろしく!!

投稿者 tsukada : 2009年10月30日 18:44