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2008年09月10日

プロジェクトX

 現在当院では壮大な計画が進行中。名付けて「プロジェクトX」・・って、誰もそうは呼んでいませんが。

 それは「電子カルテ」の導入です。これまでは紙のカルテに記入し、会計の業務に専用のコンピューター(レセコン)を使っていました。電子カルテはそれを統一したコンピューター・システム。全ての業務をコンピューター上で行おうというものです。

 電子カルテは10年ほど前から使われ出しました。カルテというのは公式の医療記録ですが、紙のカルテにはいろいろと問題があります。大きな病院などでは患者さんの病院を共有することが難しい。オンラインでつながれたコンピューター・システムが整備されていれば、どこからでも、誰でも情報を知ったり、書き込むことができます(逆に情報の漏洩が問題になりますが)。

 医師が主に書き込むわけですが、丁寧に、誰が読んでも分かる書き方をしているかというと、そうではないことの方が多いでしょう。「公式な記録」ではありますが、医師個人にメモ書きになっている場合も少なくありません。

 私のカルテもそうなりつつあります。言い訳をさせてもらえば、忙しいからです。外来診療は時間との勝負。きわめて短い時間に診察をし、指示を出し、そしてそれをカルテに書き留めなくてはいけません。あながち書き方は乱暴になりますし、内容は最低限のものになりがち。それではいけないと思いながら、でもそうならざるをえないのが現実です。

 書いている言語にも問題があります。日本人が日本国内で書いているカルテですので、日本語で書くのが当然でしょう。しかし、多言語が飛び交っています。昔はドイツ語が、今は英語が主です。といっても、ちゃんとした文になっているわけではなく、医学用語を英語で書いているだけなのですが。

 さらにそれを急いで書いているから、ミミズがはったような文字に。カルテをのぞき込んだ子どもが「ベラ書きしている」と言ってしまい、隣にいたお母さんがあわてて、すまなそうな顔をしたこともありましたが、本当に正直なお子さんです(^^;)

 自分にしか読めないようなカルテは、チームで行っている医療には不適切であることは言うまでもありません。指示の間違いなどがおきないよう、日本語で書くべきだというのもうなずけます。

 ではなぜ日本語で書かないか。それは文字も問題があります。漢字で書くことはけっこう時間と労力が必要です。咳(または咳嗽)は英語では「cough」、熱(または発熱)は「fever」。やはり英語で単語を書いたほうが楽ですし、時間が短くてすみます。

 もう一つ日本語を使わない理由があります。昔から「患者さんには医療内容を伝えない」という思想(?)が医療の中には生きています。最近でこそ薬の名前を教えるようになりましたし、診断名をきちんと伝えるようにもなりましたが、以前はそうではないのが普通。患者さんは医者に従っていればいい、なんて考え方がありました。だから患者さんが読めないように外国語で書いていたというのです。

 これもおかしな話ですよね。ドイツ人の医者がドイツ人の患者さんを診察するときにドイツ語を使わないのだろうか。アメリカ人の医者がアメリカ人の患者さんを診察するときに英語を使わないでいる、なんてことはありえません。日本だけでおきているような現象が、「世界標準」ではおかしいものなのです。

 いろんな理由があって、私も紙のカルテに、英語の単語を主に使いながら仕事をしています。しかし、そろそろ「電子カルテ」への転換が必要な時期だと思い始めていました。電子的な処理をすることで、患者さんの情報を院内スタッフみんなで共有する必要が高まってきているからです。

 もちろん、日本語で書き込むことを前提にしています。電子カルテであれば、日本語での入力は容易です。この「院長ブログ」を書いているのと同じように、日本人であれば誰でも読める言語で、そしてきれいに(!)カルテを作っていくことができます。

 もう一つ、紙のカルテによる弊害が大きくなり、その解決が必要になってきたという事情もあります。それは紙カルテ保存のスペースです。開院から18年がたち、登録してある患者さんの数はとても多くなってきました。患者さんの数だけカルテがあります。一つ一つのカルテも、次第に厚さが増してきました。

 それを保管する場所が、次第に手狭になってきました。最近よく来られる患者さんのカルテは受付の近くに置きますが、そうではなくなると他に場所に移動。といっても不必要になったわけではありません。遠くからカルテを探し出してくることも少なくなく、その労力も大変な。

 電子カルテが本格稼働すれば、これまでのカルテ探しの作業が不要になります。全てがパソコンでできます。もう電子カルテを使わない手はありません。

 ということで、今回は電子カルテを導入することに決めたのですが、実は数年前から悩んでいたことでもありました。何を心配し、導入までそうとうの期間が必要だったのか・・それは明日の「院長ブログ」でお話ししようと思います。

投稿者 tsukada : 2008年09月10日 23:18