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2008年06月17日

医師不足(1)

 今日のニュースによれば、厚生労働省は「医師不足」解消のため、医学部の定員を増やす方針にしたそうです。

 医学部の定員はかつては8,300人ほどでしたが、いずれ「医師過剰時代」がやってくるという見通しがあり、1982年に定員を減らす方針が閣議決定されました。その後〝順調に〟定員は減り続け、今では1割減の7,600人ほどになっています。

 しかしこの見通しは大誤算。実際には医師不足が大きな社会問題になるほどに、日本の医療は崩壊寸前になっています。診療科による偏在、地域間での偏在、女性医師の増加による就業医師の不足・・。

 問題の根源が医学部の定員を減らしたことだけではありませんが、大きな役割を担っていたのは確か。社会が複雑化し、医療が高度化する中で、医師や医療の専門性はどんどん進んでいます。それだけでも医師数はそうとう多く必要でしょう。

 それに加えて、日本は先進国で最も高齢化が進んでいます。年齢が高くなるほど、病気をもち、医療にかかる頻度や必要性は高まります。それは致し方ないこと。高齢者医療をしっかりと行うためにも、より多くの医師が必要になります。

 女性医師の割合が増えると、全体としての医師不足がおきてしまいがちです。結婚、出産、育児などにともなって、一時期、医療の現場から離れざるをえない立場にいるからです。それは、男性医師が異常なまでの長時間労働をしている、ということの裏返しなのです。

 いずれにせよ、「いずれ日本は医師過剰時代になる」という説がまことしやかに唱えられたことが大きな間違いだったということです。これは厚生労働省と財務省(かつての厚生省と大蔵省)が言ってきたことです。

 医者が増えると過当競争になる→医療費が増える→国の財政負担が増える→国の活力が失われる・・これが「医療費亡国論」の中身です。

 結論が間違いだったことは、今の日本が抱えている「医療崩壊」「医師不足」の現状を見れば明らかです。

 考え方も間違っています。「医者が増えると過当競争になる」といいますが、先にお話ししたように医師のすべきことは飛躍的に増加し、必要な医師数はとても多くなっています。単純に「医師過剰」になるわけではありません。

 また、普通は「過当競争」になれば、その費用は安くなるはずです。競争原理、市場原理はそうでしょう。「安かろう・悪かろう」ではいけないので、医療に資本主義の原理がそのまま持ち込まれては困るのですが、でももし競争したら、安くなっていきます。

 医師が増え、より良い医療をより多く国民に提供できるようになれば、それ自体が「健康な生活」を保障するわけですので、ハッピーなことです。お金がかかってもそうしなくてはいけないでしょう。

 さらに、実は医療をより充実させることは、国力を増大させます。医療にかかわるのは医師だけではありません。さまざまな職種の人たちの雇用が増えます。そしてその大半が女性だということも、注目しておかなくてはいけません。

 まだまだ「男性中心社会」である日本において、女性が継続して職業を持つことができること、そしてその職種がとても専門的であり、国民の幸せ増進に直結していることは、特筆すべきことです。介護などにおいてもそう。福祉の分野をのぞいて、これほど女性が活躍できる職種がどれくらいあるでしょう。

 さらに、産業も豊かになります。医療活動を行うにはさまざまなモノが必要。医薬品、診断機器、治療機器、診療材料・・。医療周辺にある関連産業がすべて〝潤う〟のですから、経済効果はけっして少なくはないでしょう。

 厚生労働省や政府が、これまでの「医師削減策」から「医師増加策」に転じたということ自体は、良いことです。過去の政策の誤りを実質的に認めたわけですので、お役所にとっては「大英断」なのでしょう。

 しかし今回の方針転換だけで本当に「医師不足の解消」ができるとは思えません。まして「医療崩壊」に有効な歯止めがかかり、「医療再生」ができるとも思えません。このあたりの話は、次の「院長ブログ」でしてみたいと思います。

投稿者 tsukada : 2008年06月17日 15:42