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2008年05月28日

使い回し

 このところ「使い回し」という言葉をニュースの中でよく耳にしています。その一つは高級日本料理店での出来事。

 お客さんが残した料理を、もったいないからということで別のお客さんに出していたということが発覚しました。調理し直すということで、食品衛生上は問題のない行為なのだそうですが、それにしても老舗の看板が泣きます。

 案の定、お客さんは引いてしまったようです。来店者が減り、経営が成り立たなくなり、廃業することになったそうです。

 同じようなことを行っている料理店は少なくないだろうな、とも思ってしまうのですが、事実はどうなんでしょう。もしかしたら飲食業界の中では「常識」なのかもしれません。たまたま世間に知れ渡ってしまった、まれなケースなのかも。

 その筋では「常識」であっても、一般人の「常識」ではありません。まして「良識」ではないことは言うまでもないこと。そんなことをしていて、自分たちの心が痛まなかったのでしょうか。小心者の私にとってはうらやましいような「強い心」をもった人たちが多いのかもしれません・・。

 「使い回し」という言葉は別のニュースにも出てきます。簡易血糖検査の器械を「使い回し」ていた、というものです。

 糖尿病の患者さんにとっては、血糖を良い値にコントロールすることはとて大切です。重症になればなるほど、一日に何度も測る必要がありますが、そのたびに医療機関を受診することはできません。自分で簡単に測定できる器具があると便利。ということで作られたのが、今回問題になっている血糖検査器械です。

 万年筆のような形をした器械で、中に血糖を測定する装置が入っています。一方が採血のための装置で、その先端には針がついています。測定のたびに針を交換するのですが、自動で行うものもあれば手動で行うものもあります。

 いずれにせよ、測定のたびに針は交換が必要ですし、何よりも一人の患者さんだけに使うように設計してあります。やはり感染症を伝染させてしまう可能性があるからです。

 針を共有すれば肝炎などを移してしまう危険性が大きいことはご理解していただけると思います。一人の方が肝炎ウイルスを持っているとすると、採血の際に針にそのウイルスが残ってしまいます。次に検査を受ける方が、ウイルスに汚染された針を使うことで、そのウイルスが体内に入り、感染を受けてしまうのです。

 日本人は元来B型肝炎のキャリアー(症状は出来ていないけれど、ウイルスを保有している人)が多い民族です。5%ほどの保有率だといわれています。最近はC型肝炎のキャリアーもしだいに増えてきていることも確かです。

 日常の生活の中での感染は、ほとんどおきません。血液や体液を介しての感染ですから、医療行為を通してか、または性交渉などを通しておきる場合がほとんどです。握手をしたり、軽いキスをする程度で感染することはありません。

 逆に言えば、医療機関では互いに移し合う可能性があることを、たえず注意深くみていく必要がありますし、それを予防するような対策をきちんと実施していなくてはいけません。

 採血や点滴などで使う針や注射器は「使い捨て」(ディスポーザブル)であることが、医療関係者の「常識」です・・そう私は思っていました。でも、実は必ずしも「常識」ではなかった、ということが今回の事件ではっきりしました。

 話を元に戻しますが、先に述べた簡易血糖検査機は針先を換えても、その先に付いている測定装置は同じです。そこに血液がつくわけですから、当然肝炎ウイルスなどが残留している可能性があることは明らかです。次の検査をするときに、測定装置の残っている肝炎ウイルスが針に逆流し、その針を皮膚に刺すことで体内にウイルスが入っていきます。

 同じ患者さんが使うのなら、もともと自分が持っていたウイルスですから、新しい問題はおきません。だからこの器械は同一の患者専用の器具として開発され、使用するようになっています。

 しかしこの部分が医療界の中での「常識」ではありませんでした。針を換えれば別の患者さんに使っても問題がないと、勝手に解釈し、実際に使っていました。「器具の使い回し」というのはそういう意味です。

 針を換えずに使っていた診療所も問題になりましたが、これは論外。使い方を知らなかったなどと言い訳をしているようですが、器具には「同一患者のみで使用」という意味の警告が赤い文字で大きく書かれています。それでも行っていたわけですから重大な過失であり、ある意味で犯罪行為です。

 いずれにせよ、健康になるために行われている医療行為の中で健康を害することが行われていることを、私たち医療従事者は真摯にとらえ、反省すべきはきちんと反省しなくてはいけません。今後このようなことがないよう、一日も早く改められることを願っています。

 なお、当院で行っている処置などを見直しましたが、すべてディスポーザブルの器具を使うなど、適切に行われていることを確認いたしました。どうぞご安心下さい。

 ところで・・実は一つ疑問に思っていることがあります。今回の報道では肝炎のことはでてくるのですが、HIVの話はでてきません。エイズをおこすウイルスです。もしHIVの感染が起きてしまったら、肝炎以上のダメージを体に与えることでしょう。

 ニュースに出てこないのは実際にHIV陽性の方がいなかったから? HIVに感染した人がいなかったから? そうならいいのですが、調べていなかったり、本当は問題が起きているのだけれど公表していない、などということだったら、事態はより深刻です。真実はどうなのでしょうか。気がかりです。

投稿者 tsukada : 2008年05月28日 23:59