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2008年05月26日

小児救急電話相談(1)

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 一昨日の朝日新聞に掲載された記事です。「小児救急電話相談」という事業が全国で実施されていて、子どもの急病の時などにまずは使ってみてはどうか、という内容です。

 子どもたちの病気やケガは急におきるもの。親御さんにとっては心配なことばかりでしょうが、その多くは必ずしも急いでの対応が必要ではありません。

 夜間や休日などに病院を利用する“救急患者”の大半は、実は重症ではないという事実があります。勤務医の負担を軽減するためにも、まずは電話で相談してみることをすすめている。それがこの事業の趣旨です。

 数年前から行われていますが、厚生労働省が音頭を取り、実際の事業は都道府県が行っています。“温度差”があり、記事によれば富山、鳥取、長崎、沖縄の4県では未実施だそうです(長崎県はこの6月から実施予定)。

 各県で一か所“ステーション”を作り、そこで看護師さんらが電話対応する方式が多いようです。小児科医もかかわっていますが、直接電話にでることはあまりなく、もっぱら看護師さんへのアドバイス役をしています。

 具体的な実施方法などは各都道府県でそうとうのばらつきがあるようです。また全ての都道府県で、時間外や休日に必ず電話がつながるわけではありません。

 例えば私の住む新潟県では土曜、日曜、祝日の午後7時〜10時だけ。平日の夜間は全く実施していませんし、土日などの昼間も電話をかけてもつながりません。

 実は私は昨日、この電話相談の担当でした。県庁から送られてくる専用の携帯電話を傍らに置き、家で過ごしていました。3時間の間で私がアドバイスをしたのは1件だけ。看護師さんが自力で対応してくれているケースが多いのだと思っていたのですが、終わってからお聞きしたところでは、相談の事例は全部で2件だけだそうです。

 私は年に数回、この仕事をしていますが、多くても数件どまりというのがいつものことです。正直に言って、ほとんど利用されていない、というのが実態でしょう。

 困った時だけに利用してもらうのだから、利用が少ない方がいいことだ・・そんな声も聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか。

 当院も独自に電話相談を行っています。当院にかかっている患者さんが、夜間などで急に具合が悪くなった時などに、まずは電話で相談できるようにしてあるものです。一日あたりおおよそ3件の利用があります。

 件数は同じようにも見えますが、格段に違うのだということがお分かりいただけますでしょうか。一方は全県の子どもたちが対象であり、他方は当院をかかりつけにしている子どもたちだけ。ベースになる人口は何桁も違っています。

 それに当院の事業は年中無休。一日あたり3人でも、月に100人強、年にすると千数百人の相談に応じています。新潟県が行っている事業は・・週に2日ほどで、年では100日程度です。利用の延べ人数は多くても数百人でしょう。

 たった一つの医院が行っている事業が、県の公的な事業の数倍利用されている現実があります。それも、電話相談に要する費用の一切を、医院からの持ち出しで行っています。

 この事実を前にしても、まだ「利用が少ない方が良い」と言えるでしょうか。せっかくの事業が活用されていないのは、実はニーズ(必要性)に的確に答えられない事業内容だからではないのでしょうか。

 当院の電話事業はノンストップです。診療時間中をのぞく全ての時間帯が対象です。いつでも、どんな時でもつながります。その使いやすさが、一定の利用を生んでいるのだと思っています。

 新潟県の事業が始まる際に、ある会議で県の担当者にお話をしたことがあります。最初のスタートは大切だけど、それをさらに向上させていくことはもっと大切。必ず見直しをしながら、事業を継続していってほしい、と。

 機会があれば、ぜひもう一度、同じことをお話ししたいという気持ちです。もっとも、相手に聞く耳があれば、ですが。

投稿者 tsukada : 2008年05月26日 20:40