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2008年02月05日

これからも補助なし

 病児保育のことを少し書こうと思います。“あのこと”からもうすぐ1週間。そのことをどうとらえればいいか、今後はどうしていけばいいのか、なかなか整理がつかず、この「院長ブログ」でも触れずにいたことです。少しずつ考えがまとまってきましたので、今日は思い切って書こうと思います。

 “あのこと”というのは、私たちの施設=わたぼうし病児保育室に対して市からの助成が、来年度は見送られることになった、ということです。

 わたぼうし病児保育室は2001年6月開設。以来6年半ほど、市などからの公的な補助を受けることなく運営してきました。お預かりするお子さんは年々増加し、昨年度(18年度)は約1,900人、今年度はおそらく2,000人以上になるでしょう。この規模は新潟県内10数か所の同様の施設では最多です。

 保育士の人数もそれに連れて増やしてきました。当初は2名の常勤保育士から始めましたが、現在は常勤4名、パート3名。それに加えて医院から医師(私)や看護師などが健康管理などを行っていますし、事務職も兼務しています。

 収入は保育料が1日あたり一人2,000円。年間2,000人の利用があるとすると総計で400万円ほどになります。必要経費は人件費が主ですが、保育料だけではとても足りません。これまでは医院から補填してきました。その額は年間1,000万円以上。その他に保育室を新築していますので、それらの施設設備をあわせると、開設以来の累計は1億円になろうかというほどです。

 上越市は現在は「病後児保育施設」を2か所設けています。その利用は必ずしも多くなく、2か所をあわせて年間数百人程度とお聞きしています。定員を12名としていますが、利用数が少ないのは「必要性が少ない」わけではなく、「親御さんの必要性を満たすことができない」ということが主な理由ではないかと、私は考えています。

 中でも最も大きなものは、急性期の病児に対応できない、という点です。子どもは急に病気になるもの。そして、その急な事態にすぐに対応できないのは、共働きや片親の家庭では致し方ないこと。多少良くなり、病気の回復期になれば、仕事をやりくりしたり、家族に頼んだり、地域で受け入れてくれたりと、何とかなることが多いでしょう。

 その意味で、急性期の病児をお預かりすることが子育て支援にはとても大切なことです。その実現のためには小児科医の存在は必須であり、当院のように小児科に併設していなければできるものではありません。

 また、親御さんからの急な依頼に応じられるようにするためには、十分な数のスタッフが必要ですし、施設設備も余裕がなければいけません。当院は開設から今日に至るまで、依頼のあったお子さんを一人もお断りすることなく、全員受け入れています。それが私たちの誇りです。

 困難な中でも親御さんの立場を考え、地域の子育てのあり方を考えながら、民間としてはできるだけのことをやってきているつもりです。親御さんのニーズはもっともっとあります。今後もさらに利用者は増加するでしょう。それだけ必要性の高く、公共性も高い事業です。

 でも、これ以上はもう限界。というより、もうとっくに限界は過ぎています。そもそも、民間団体が任意で行う性格の事業ではないのかもしれません。こういった事業にこそ、税金をしっかり使って運営すべきでしょう。それによって事業の安定性や、さらなら需要に対応できるよう事業の拡大も可能になります。

 ところで上越市には「次世代育成支援5か年計画」があります。政府の主導で全国の自治体が策定したものですが、具体策は自治体ごとに練り上げられ、行政の責任で実行するとしています。上越市の計画には、この病児保育についても触れています。

 現在行われている2か所の病後児保育施設をさらに拡充するとともに、21年度には「病児保育」を始めるとしています。さらに、昨年の市議会で市長は、この計画に積極的に取り組み、前倒しして実施すると答弁しました。21年度を前倒しするというのですから、20年度中には実施すると約束したと、私たちは思っていました。

 先にお話ししたように、病児保育には協力する小児科医が必要です。それそうとうの施設設備もなければなりません。上越市が病児保育を新たに始めるとしたら、病後児保育施設のような小児科医のいないところで単独で実施することは不可能です。小児科医のいる医療施設に依頼し、委託することになるのは、当然のことでしょう。

 すでに当院にはわたぼうし病児保育室があり、それなりの実績をあげています。つまり、市として病児保育を実施する段階で、まずはわたぼうし病児保育室の事業を市としての取り組みとしてとらえ、必要な経費を援助する・・そんなふうになるものと考えていました。

 市の担当部局とはそんな経過をふまえてお話をしてきたのですが、最後の結論は「わたぼうし病児保育室への助成は20年度はしない」というもの。

 その決定の意味することを、市の方々は十二分にご存じだと思います。民間団体への補助をどうするか、というレベルの問題ではもうありません。市として市民に約束した「病児保育の実施」という方針を破棄することです。少なくとも20年度についてはそうです。

 どうしてこんなことになってしまうのでしょう。地方財政が逼迫しているから? 少子化社会をふまえて、次世代の育成に積極的に取り組むという姿勢が、そこには見えてきません。

 話の筋道を間違えているのかな、とも思います。わたぼうし病児保育室への補助をするために「次世代育成支援5か年計画」ができたわけではありません。それは市として独自に練り上げ、作ったものです。それを実行に移すにあたって、わたぼうし病児保育室の存在を認め、その運営費の一部に公費を導入してはどうか、という提案が市役所の中で検討されてきた・・そんな経過を、もう一度思い起こしてほしいのです。

 わたぼうし病児保育室は次の年度も補助なしでやっていきます。もともといただいていなかったのですから、これまでと同じ運営方法をとっていくだけです。利用者の方に、このことでご迷惑をおかけすることはありません。それは私がお約束します。

 ただ残念なのは、市の施策として病児保育に取り組むことが先延ばしされたこと。「もうすでに民間でおこなっているのだから、市として行う必要はない」・・そんな声が市役所から聞こえてきそうです。困ったことです。

 私たちは民間でやっているので、お役所仕事はしていません。これも誇りに思っています。たえず業務を見直し、フレキシブルに対応することもできています。親御さんの必要性と子どもたちの健康や幸せが第一の関心事です。そんな「思い」をこれまでも育ててきましたし、これからも真心をもって育てていきます。

 お役所の論理は分かりません。どんな交渉術をすればいいかも知りません。というより、知りたいと思いません。そんなことに時間とエネルギーを浪費するのは、もうやめます。

 市政を担っている方々へ。上越市における病児保育はどうあるべきか、すでに活動しているわたぼうし病児保育室をどう位置づけるか、それらがしっかり固まって、必要だと思うのでしたらどうぞお声かけして下さい。私たちは今と同じスタンスで、病児保育を実践し続けていますから。

投稿者 tsukada : 2008年02月05日 23:19