« 暖め続けて13年 | メイン | 勤労感謝の日 »

2007年11月21日

医薬分業と医療費

 病院や診療所を受診したあと、お薬をどのようにしてもらっていますか? 最近は「処方せん」を発行してもらい、それをもって調剤薬局に行き、そこで薬を作ってもらうことが多くなってきました。これを「医薬分業」といいます。

 日本では以前は院内処方が普通でした。「医者にかかる」ということと「薬をもらう」ことが一体というのが“伝統”だったともいえます。

 欧米では歴史的に医薬分業が当たり前。薬剤師の業務が確立していたので、医者の仕事は薬の内容を決めることまで。実際に薬を扱うのは薬剤師であり、そのための専用の薬局が整備されていました。

 日本でも医薬分業をもっととりいれようという動きが、ここ20年ほど活発になってきました。そのほうが医薬品の安全管理も十分にできるし、副作用がおきる危険も少なくなるからです。

 医薬分業が急速に進み、現在では外来患者の50%以上に処方せんが発行されるまでになりました。薬剤師の地位や、薬局の業務が確立されてきたと考えると、喜ばしいことです。しかし患者さんの立場にたつと、医薬分業が本当に良いことなのか、今でも疑問に思っています(だから当院はまだ院内処方で頑張っています)。

 さらに、医薬分業が進むと医療費が高騰することがあまり知られていません。院内処方と調剤薬局の診療報酬にはとても大きな格差があります。院内はとても安く、薬局はそうとう高く設定されています。

 医薬分業を推進するという国の政策で決められたことです。「利益誘導」と私たちは呼んでいますが、院内処方を続けると医療機関の経営は苦しくなり、院外処方を選べば医療機関も増益になり、調剤薬局も繁盛するのでより多くの薬局が開店するという構造です。

 医薬品を扱うことでの利益は、今はほとんどありません。建前では7%に設定されていますが、消費税5%を払うと正味2%。これでは在庫管理もできません(消費期限が過ぎて廃棄する薬剤も少なくありません)。むしろ赤字になるのが、現在の価格設定です。

 正当な技術料がなければ、院内薬局も調剤薬局も経営が成り立ちません。保険で支払われる報酬を見てみると、調剤薬局には多くの技術料が作られています。薬局が適正に運営されるためには必要だという考えなのでしょう。そうであれば、院内薬局の報酬がとても低く設定されていることに合理的な根拠はありません。

 その結果が院内処方から医薬分業への大転換なのですが・・忘れていけないのは、その分、医療費が大きくなっていることです。一方で財政難から医療費全体の大きさは変えず、むしろ小さくしようとしています。当然起きてくるのは、医療機関への圧迫です。

 医療機関が廃業に追い込まれたり、一部の科をやめざるをえない状況があります。医師不足など、さまざまな原因が関係していますが、その一つに、医薬分業の進展に伴う医療費増加を医療機関に負担させていることを見逃すわけにはいきません。

 こんなところにも、日本の医療行政の貧しさが現れているように思います。そして最大の被害者は患者さんであり、国民みんなです。

 こんな点も医療のあり方の中で議論してほしいので、参考になる資料を作りました。私が所属する新潟県保険医会の求めによって作成したもので、近日中に国会議員との会合で問題提起する際の資料として使うそうです。

 一般の方には分かりづらいかと思いますが、PDFファイルにしてアップしましたので、ご覧になって下さい。その違いにビックリするはずです。

調剤薬局との格差(PDF)

投稿者 tsukada : 2007年11月21日 10:28