« 朝の公園 | メイン | 草原を夢見て »

2007年08月08日

プロとしての保育士

 先日来お話をしている北九州市での園児熱中症死事件ですが、詳しい経過が分かるに従い、そのあまりにおそまつな保育体制にあきれかえるばかりです。

 公園への散歩のあとに全員がバスから降りたことを確認しなかったことが、この事件(もう「事故」ではありません)の根本的な原因です。それに加えて、その後の対応の間違いが、この事件をさらに悲惨なものにしてしまっています。

 お昼寝から起きて、おやつを食べさせたところ、一つ残っていることで、やっと暖人(はると)ちゃんがいないことに気づいたということ。それ自体も、とうてい考えつかないことです。自分の受け持ちの子どもたちの様子を、たえず確認しているのが保育士の業務の基本のはず。人数を確認するまでもなく、どの子がどこでどのような状態かを認識していれば、遠足から帰ってきた段階で、仮に点呼をとらなくても気づいたはずです。おやつを食べ終わるまで3時間ほども「忘れられて」しまっていた、ということが、そもそもプロである保育士の仕事として許されることではありません。

 暖人ちゃんがいないことに気づいてからの対応も、おかしなことだらけです。数時間前に公園にでかけていたのですから、常識的に考えて、まず公園からきちんと連れて帰ってきたかどうかを心配するでしょう。そうであれば、バスの中を探しに行ったり、公園まで行ってみることを、真っ先に行うはず。それをすぐにはしていない、ということだけで、何を考えていたのか、不可解です。

 園児が一人行方不明! 一大事です。ただちに園内外を探し始めなければいけませんが、自分たちだけでそれができると思ったことも信じられません。7名の職員の中で、暖人ちゃんがいないことを知っていたのは、わずか3名の保育士だけだったということ。そして園長にも連絡・報告していません。なぜ!?

 誘拐されたかもしれない。何が起きたかはすぐには分からないにせよ、猛暑の中を、何時間も所在不明になっている2歳の幼児がいる・・それは、命の危険があることを認識できなかったのでしょうか。不思議でなりません。

 当然、職員全員で情報を共有し、知恵を出し合い、みんなで探し始めることも必要です。もちろん、他の園児がいるわけですから、保育園から保育士がみんな出て行くことはできませんが、そうだからと言って、他の職員に秘密にする理由は全くありません。

 園長への報告をしていなかったことも、やはり理由がよく分かりません。自分たちの責任を叱責されることを恐れたのでしょうか。そうだとしたら、暖人ちゃんの命よりも自分の「保身」を優先させた判断だと言わざるをえません。

 その後、もしかしてバスの中に取り残されているのではないかと思いつき、バスの鍵を他の保育士から借りてきたそうですが、その段階でも暖人ちゃんがいなくなっていることは伏せてあったそうです。伝えたのは「園児の帽子を車内に忘れてきたから取りに行く」。あきれます。

 車内で暖人ちゃんが見つかったあとも、救急車を呼ぶまで40分ほどかかっています。これについても以前に触れていますが、瀕死の状態の子どもを前にして119番通報することをためらう理由がどこにあるというのでしょう。

 自動車を日陰に移動し、車内のエアコンでクーリングしたということですが、それが病状の改善に結ぶ付くとはとうてい思えません。発見した保育士は携帯電話をもっていたそうですが、園への連絡はしても、119番はしていません。

 園側が市に提出した報告書には、関係者に連絡していて時間がかかった、とあるそうです。関係者って誰? 40分もかかるほど、多数の連絡をしていたの? かりに連絡をしていたとしても、電話がそれで使えなくなることもありえません。それぞれの保育士はきっと携帯電話をもっているでしょう。それを使えばすみます。もちろん、真っ先に119番通報をして、その後に「関係者との連絡」が必要ならすればいい。どう考えても、ただ単に言い訳を言っているだけのようです。

 ちなみに、親御さんへの連絡は救急隊が到着し、病院に運ばれてからのようです。なぜ行方不明になった段階で「第一報」を入れていないのか。起きていることの重大性を認識していないと同時に、関係している(受け持っている)保育士が責任逃れをしていたということなのでしょう。

 今回の事件から学ぶべき点は多くあります。園の保育についての体制がきちんとできていなかったという点で、すでに刑事責任を問われています。それだけではなく、やはり一人一人の保育士や職員の問題も重大です。何人もの職員が関わっていながら、誰もきちんとした対応ができていませんでした。

 園としてマニュアルがあるかどうか、こういった事故にならないよう指導してあったかどうか、事故がおきてしまったあとの対応を指示していたかどうか・・それも問題ですが、それ以前にそれぞれの職員がしっかり物事を考え、対処できる能力がなかった、という点を問題にせざるをえません。

 そんなに難しいことを言っているわけではありません。預かっている子どもが「行方不明」になったのですから、急いで探し出さなければいけないという、それだけのことです。職員みんなで手分けして探し、警察にも、親御さんへも直ちに連絡する。普通の人たちでも当然するはずのことが、保育のプロである保育士にどうしてそれができなかったのか。

 それぞれの保育士や職員が、自分で物事を考え、対処することを普段からしていなかったのではないか、と思ってしまいます。みんなと同じことをしていればいい。上から指示されたことだけをしていればいい。親御さんからの頼まれたことだけをしていればいい。・・疑問に思ったこと、改善した方がいいと思ったことも、それを口にすることはいけないことだと、教え込まれていたのでしょうか。

 個人の保育士の責任ばかりを強く追求するのは酷な話かもしれません。そのように教育されてきたのでしょうから。でも、それでは子どもの命が守れないことは、今回の事件が教えてくれています。私には、そう思えてきます。

投稿者 tsukada : 2007年08月08日 21:19