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2007年06月27日

“今日”を助ける

 昨日の産経新聞に掲載された「病児保育」についての記事はご覧いただけたでしょうか。当院のわたぼうし病児保育室を取材したものをベースに、国の動き、他の例も参考にしながら、きっちりとまとめ上げていただいきました。

 わたぼうし病児保育室はときどき取材を受けています。新聞、テレビなどです。当院が病児保育を始めて6年がたちますが、当初は“物珍しさ”もあったのでしょう。こんなユニークな子育て支援をしているよ、といった内容が多かったようです。

 今回の記事は、これまでのものとは質的にずいぶん変わったように思います。それはなぜ私たちが「病後児保育」ではなく「病児保育」をしているのか、をしっかりととらえてもらっているからです。

 言葉の遊びのように感じるかもしれませんが、そうではありません。2つはずいぶんその内容が違っていますし、保育の体制も格段に違うものです。

 「病後児保育」というのは病気の回復期にある子の保育をさします。それに対して「病児保育」とは、急性期の一番具合の悪い時の保育を意味します。(広い意味でそれら全部をまとめて「病児保育」という言い方をする場合もありますが、国が作ったモデル事業は「病後児保育」から始まっていて、急性期の「病児保育」は例外として扱われてきたという経過もあるため、一般には「病児保育」という言葉を狭い意味で使う場合が多いようです。)

 私たちは病後児保育については、それほど重要だとは思っていません。もちろんご家庭によっては必要性があるでしょうし、求めがあれば応じていますので、排除しているわけではありません。でも、多くの場合、子どもの具合が良くなってきている時には、両親の間でどちらかが仕事の休みを容易に取ることができるようになっているでしょうし、遠くにいる祖父母などの応援も得やすくなっているはず。普段通っている保育園でも、看護師がいるなど条件が整えば、形式的に病後児保育を行っていなくても、その子独自の保育プログラムを組むことで、預かってもらえる可能性もあります。

 つまり、病後児保育の必要性は一般的には薄いものになってくるでしょう。

 逆に急性期のお子さんを預かる「病児保育」の必要性は、より大きなものがあります。まずもって子どもは急に病気になるものです。子どもの病気の大半は感染症ですし、そのまた大半は急性です。夜中に急に熱を出したり、休日に具合が悪くなれば、翌朝の急な対応が必要になります。

 そんな時、門戸を大きく開いている病児保育室が近くにあればどれほど助かるかは、私自身の子育て経験からも、そして小児科医として毎日、病気の子どもたちの親御さんを見守っている立場からも、よく理解できます。

 「子どもが病気の時くらい、仕事を休め」と言われることもあります・・とくに小児科医から(-_-)。それができるようであれば、誰も困りません。子どもの具合が悪いときに平気でいられる親はいないのですから。休めないから悩んでいる。そしてその重荷は、今の日本ではどうしても母親が一手に引き受けざるをえません。

 子どもが病気になったときに容易に休暇がとれるような制度がないからいけないのだ、病児保育(病後児保育)をすることで、看護休暇制度の導入や社会制度の充実を遅らせる、必要悪であり、いずれはいらなくならなければいけないものだ----そんな意見も散見されます。けっこう小児科医の中では強いものがありますし、もしかしたら病後児保育に携わっている人たちの中にもそうとう根強くあるのかもしれない、とも感じています。

 確かに一理あります。社会制度の発展を阻害しないように注意をしていく必要もあるでしょう。でも、そういっている人たちが、企業に制度の導入を働きかけたり、国にその充実を求めて運動している、という話を聞くことはありません(もし行っている人たちがおられるのでしたら、見識不足であり、申し訳ありません)。より大きな問題に対しては積極的に働きかけることをしないまま、病児保育(病後児保育)はおかしいとクレームをつけるのはいったいどうしたことなのでしょう。どちらを向いて仕事をし、歩みを進めているのでしょう。

 話がそれて来ましたが、より重要なのは病児保育だということを言いたいのです。仮に看護休暇などがきちんととれるようになったとしても、私たちが責任をもって、任された仕事をしている限り、急に休みを取ることは難しいからです。社会が高度に発展すればするほど、そういった事情をもって働く人たちが多くなります。

 それでも「子どもが病気の時は親は休むものだ」と親に“説教”するのであれば、それは仕事を続けるなということを意味してしまいます。そして、そのしわ寄せの大半は、女性が背負うことになるのが、今の日本の社会です。

 勘ぐりかもしれませんが、「子どもが病気の時は・・」ということを平気で言う人は、母親は家庭にだけいればいいのだという考えをもっているのではないか、とも思えてしまいます。女性は家庭の中で、男は外で仕事だけをする・・そんな“日本的な家庭観”をまだ引きずっているのではないか、と。

 あんな発言をする裏には、もしかしたら「女性が仕事をしながら子育てをするのは、もともと無理なのだ」とか、「自分が働きたいから、家庭で子どもをみずに、早くから子どもを保育園に預けているにちがいない」などという思いがあるのかもしれません。

 急性期の病児保育こそ最も必要なものだというのが、私たちの当初からの考えです。そして、それを実現するためには「頼まれたら断らない」をモットーにし、実践しています。保育士などのスタッフにも、施設設備にも余裕をもって、いつでも、だれでも受け入れられる体制を作ってきました。これまでの6年間でお断りしたのは一人もいません。

 昨年の利用者が年間で1,800人ほど。1日の平均は7〜8人。全国的にもそうとう突出するほど多くの子どもたちをお預かりしている実績が、私たちの考え方がけっして間違っていないことを証明してくれていると思っています。

 自画自賛になってしまいますが、地方の小さな市で、一開業医のところで、公的な補助や制度もなく、細々と(?)やっているのに、この規模にまでなってきたことの意味合いを、ぜひ考えてみてください。

 長くなってきたので、そろそろ結論です。昨日の産経新聞の記事では、ただの施設紹介にとどまらず、当院が取り組んでいる「病児保育」の意味をきちんと受け止めてくれていることが、その内容からよく分かります。タイトルにも「急病時も安心対応」「“今日”を助ける」とある通りです。これまでの記事などとは、質的にずいぶん変化してきたものだと、感慨深く読ませていただきました。

 ちなみにこの記事を書かれた記者の方は、わざわざ大阪から来られました。掲載の紙面も、全国版を使っていただいたということです。私も取材の中で思いの全てを伝えたいと思いましたが、記者の方の温かなまなざしをこの記事の中から感じることができました。嬉しいです。

投稿者 tsukada : 2007年06月27日 22:40