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2006年06月11日

2人で検査!?

 先日来お話している小学校での防火シャッター誤作動事故について、今日ももう少し考えてみたいと思います。

 検査員は教務室の制御板のスイッチを切ってから点検を始めたと話していたとのこと。それなのにどうして防火シャッターが動き出したのかが不明でした。今日の新聞では、この学校の火災報知器のシステムは、スイッチを切っても、3か所以上の感知器から火災を知らせる信号が入ると電源が強制的にオンになる仕組みなのだとか。検査員が一つずつ煙感知器などを点検していたけれど、復旧する前に次の感知器を動作させていると、同時に3か所から信号が送られていた可能性があるとのことでした。

 検知器が誤って作動することはときどきあります。煙感知器ではタバコで作動することもあるでしょう。熱感知器では直射日光が原因で作動することもあるようです。強い振動があたると作動することも考えらます。その時々で火災かどうかを確認するわけですが、こういった誤報が続くと「またか・・」といった気持ちになり、とりあえずスイッチを切って警報機の鳴動を止めるだけで終わってしまうこともあるかもしれません。もちろんそれはいけないことですが、人間はそれが「オオカミ少年」だと分かるとだんだんとまともに取り合わなくなるという習性をもっています。

 でも、本当の火災がおきているときに、本体のアラームを切って、それで終わりでは困るわけです。確認作業すらしなければ最悪です。そんな事態にならないように、「3か所以上で感知器が作動したら、人間の指示とは関係なく、火災として対処する」というシステムを作ったのでしょう。今回は、このシステムが徒(あだ)となりました。

 しかし、問題なのはそのシステムを知っていない検査員です。あるいは施設の管理者も、きっと知っていなかったことでしょう。危機管理に関わる重要なシステムの、基本的な情報が把握されていないで、どうして子どもたちの命を守ることができるのでしょう。はなはだ疑問と言わざるをえません。

 当院にも法律に基づいて火災報知器のシステムが設置されています。どこにどのような感知器が設置されているか、全体の構造がどうなっているかについては、設置の当初に十分に説明を受けていますし、何かあればすぐさま対処できるよう練習をつんでいます。年2回の定期点検は業者の人たちが4、5人で来られて、一日がかりで全ての項目をチェックしていきます。その様子も、私たちが一緒にいて確認しています。

 事故を起こした学校では、検査員は火災報知器の仕組みも十分に知らなかったわけで、いったい何をどう検査しようといていたのでしょうか。報道では、学校にやってきた検査員はたった2人だとか。それも一人は消化器の点検をしていたということで、火災報知器の点検はたった一人でやっていたとのこと。煙や熱の感知器が正常に作動するかどうかの点検だけをしていたようです。廊下や教室に置かれた感知器がちゃんと動くかどうかを調べるのは、一人でもできなくはないでしょう。でも、その感知器がとらえた異常を警報装置まで正しく伝えるかどうかの検査は、一人ではできません。最低2人の検査員が、制御板と感知器の両方を、トランシーバーを使いながら正常に作動していることを全ての検知器についてチェックする必要があります。

 今回の検査では、それは最初から行っていなかったのですから、明らかに消防法に違反する検査方法です。検査員もそれが分かっていたので、大元の電源を切った上で検査をしていたわけです。きっと書類上は「問題なく作動した」という報告を消防署に提出するつもりだったのでしょう。いい加減なものです。

 現在は事故の原因などのついて警察が調べているというとのことですが、そもそもの検査体制や方法が妥当であったのかどうかについても、消防署はきちんと調べてほしいと思います。そして、そこに重大な問題があったのであれば、厳正に対処すべきです。また、同様なことが世の中にまん延しているかもしれません。消防署も書類上のチェックだけではなく、現場で何がおきているのか、しっかりと把握して下さい。

 今回はたまたま防火シャッターが“誤作動”をおこし、児童が巻き込まれてしまったわけですが、この事故はたまたまの偶発的なものだと考えるのは間違いです。この小学校で、このお子さんが事故に遭ったのは悪い条件が重なったためですが、いつ、どこでおきてもおかしくないような要因はいくつもあります。防火シャッターの構造、安全装置、教育委員会や学校の対応、検査業者の質、消防署の監督・・。

 これだけの事故を起こしてしまったのですから、その原因をきちんと究明し、それを改善し、同じような事故が起きないよう十分な対策を、今すぐとってほしいものです。そして、昨日の繰り返しになりますが、そもそも防火シャッターの基本的なコンセプトが「建物を守る」だけのものでいいのかどうか、その原点にさかのぼって見直してほしいと、切に願います。

 人間は過ちを犯す存在です。だからこそ、間違い、失敗、事故、事件などからちゃんと学びとることが必要です。そのままにしていては、同じ過ちを繰り返してしまいます。そのことが、もっとも大きな過ちなのだと思います。

投稿者 tsukada : 2006年06月11日 21:18