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2005年10月17日

子どもたちを守るために

 先週からインフルエンザ予防接種が始まりましたが、もう予約はおすみですか? ぜひ多くの方に受けていただき、インフルエンザにかかりにくくしておいていただきたいと思います。できればインフルエンザの流行が小さくてすんでくれればいいのですが、多数の方が予防接種を受けると、流行の程度が小さくなってくれるのではないか、とも期待をしています。

 日本では以前、インフルエンザ予防接種は幼児・学童が受けるものとされた時代がありました。当時はそれを集団で、半ば強制で行っていたところに非難も集まり、中止になりました。このころは「子どものインフルエンザは軽い」とは言われていましたが、それにもかかわらず集団接種を行っていたのは、流行の防止です。インフルエンザの流行が、まずはかかりやすい子どもたちの中でおき、それが家庭や地域の中に広がっていきます。その流行の“現場”で予防することで、その後の蔓延を防いでくれるのではないか、と考えていたからです。

 ワクチンの副作用が問題になるにつれ、「子どもを社会防衛の盾にするのか!?」などという的はずれな反対論が強くなっていきました。予防接種の必要性についての認識が、私たち小児科医の中ですら希薄だったのですから、マスコミも、一般の方もその論に惑わされたとしても、仕方のないことだったでしょう。かくして、日本では子どもに対してのインフルエンザ予防接種は消滅していきました。

 しかし、その後の流行の状況や、高齢者の死亡原因の調査からは、子どもたちへインフルエンザ予防接種を行っていたことで、社会全体を守る効果があったことが確かめられています。そして何よりも、子どもたち自身の健康を守ることにつながっていました。(ワクチンの改良がすすみ、大きな副作用は皆無といっていいほど少なくなりました。)

 今でもワクチンの副作用を問題にする人たちがいます。その人たちは、副作用が問題だからワクチンを中止することを求めています。ワクチンは必要ないとも言っています。でも、それはおかしな議論ですよね。副作用はできるだけ少なく、あったとしても軽微なものであるべきです。しかし、予防接種の必要性とは異なる次元の問題です。

 自動車事故が今でも頻発しています。日本では年間1万人近くの人たちが交通事故で命を落としています。いわば「自動車の副作用」です。だからといって、自動車を全廃せよという議論が出てくるでしょうか。環境保全や省エネルギー、あるいは健康増進の立場から自動車をできるだけ使わないようにしようという提案はあります。それでも、自動車を完全になくすという提案をする人は、いないでしょう。必要なことは、より安全な自動車の開発であり、事故が起きにくくなるような交通政策や道路の整備などです。

 予防接種も同じではないでしょうか。その効果や必要性と、副作用について、ごちゃまぜの議論をしているのは、もうやめましょう。子どもたち(国民)の命や健康を、感染症からどうやって守るかという基本に、しっかりと立っていることが大切です。

投稿者 tsukada : 2005年10月17日 23:32

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