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2005年10月07日

インフルエンザ予防接種:アメリカの取り組み

10月に入り、そろそろインフルエンザ予防接種のシーズンです。当院でもちょうど1週間後から接種を始まります。今日はインフルエンザ・ワクチンの話をいくつかしてみたいと思います。(明日の職員ミーティングで取り上げる予定の話題を、先に皆さんにお話します)

まずはアメリカでの取り組みについて。アメリカでは昨シーズンから接種を積極的に受けてもらう対象が変わりました。それまでは高齢者や基礎疾患をもっている方が主な対象でしたが、そこに「生後6〜23か月の乳幼児」が加わりました。もしインフルエンザにかかると重症になる可能性が高いというのがその理由です。

2年ほど前、アメリカでおきたA型インフルエンザの流行で、ずいぶんと多くの乳幼児が命を落としてしまいました。それまでは、インフルエンザは子どもがかかっても軽いと考えられていたので、アメリカ社会はパニックに陥りました。ワクチン接種を受けるために長い列を作っている子ども連れの人たちの様子が、ニュースで取り上げられていたことを記憶されている方も多いことでしょう。

それを教訓に、次のシーズンからは乳幼児こそワクチン接種を受けるべきものとされました。この対応の速さはすごいです。国家の安全にもかかわる重要な危機管理対策として位置づけられたことを示しています。そして昨シーズン、生後6〜23か月の乳幼児の57.4%がワクチン接種を受けたというデータが公表されています。ちなみに2〜17歳では接種率6.6%ですので、子どもたちがみんな受けているということではありません。

アメリカでは、昨シーズン、ワクチンの供給量が予定より少なくなり、それが社会的混乱をおこしてしまいました。今年は同じことを繰り返さないよう、対応がとられています。その一つに、新薬認可のスピードアップがあります。通常では新しい薬を発売するまでには数年以上の準備が必要です。しかし、必要性が高く、安全性も一定以上のものについては迅速に審査し、世に送るというシステムが最近作られました。それにもとずいて、新しいインフルエンザ・ワクチンが数か月で発売され、今シーズンから使用されることになったそうです。

余談ですが、アメリカではインフルエンザの予防に「生ワクチン」も使われていて、十分な効果をあげているようです。当初は成人だけがその対象でしたが、現在は5歳以上の小児も対象になっているそうです。日本よりずいぶんと進んでいるんですね。

話は元に戻ります。もしもワクチンが不足したときの対応も決められました。「優先順位」をつけるというものです。細かいことは省略してますが、65歳以上の高齢者、基礎疾患をもつ人、そして生後6〜23か月の乳幼児です。これらの人たちを積極的にインフルエンザから守ることになっています。

さあ、日本はどうでしょう。子どもたちへのワクチン接種は、いまだ公的なものにはなっていません(日本人の子どもは脳症にかかりやすいというのに)。ワクチンが不足したときの対応も、「在庫調査をして、県内、県単位で融通し合う」(厚生労働省)だけで、中身のない内容です。対象者をしぼることなど、議論にもなりません(こういった話がでるとすぐに「差別だ」という批判がでてくるので、どうも及び腰になっているようです)。

残念ながら、これらを比較する限り、日本の政治・行政には子どもたちを積極的に守ろうという姿勢が見えてきません。残念でなりません。本当に「改革」されるのは、いつのことでしょう。

投稿者 tsukada : 2005年10月07日 17:00

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